認知症介護に苦しむ人に届けたい 社会福祉法人呉ハレルヤ会呉ベタニアホーム理事長 里村佳子さん(上)

この本を「介護福祉のバイブル」に

WHO(世界保健機構)や国連の定義によると、総人口に占める65歳以上の人口(高齢化率)が21%を超えると、超高齢社会と言われる。内閣府の統計では、2017年の時点で日本の高齢化率27%、30年には3人に1人が65歳になる見込みだ。
超高齢化に伴い急増し問題となってきているのが、物忘れをする、名前と住所を忘れる、夜中に徘徊する、突然怒り出したりする、妄想、幻覚など、様々な症状を発症する認知症の問題だ。65歳以上の高齢者は軽度を合わせると4人に1人が認知症とその予備軍と言われているという。
広島県呉市にある社会福祉法人呉ハレルヤ会ベタニアホーム理事長の里村佳子さんは、そんな認知症の高齢者と20年以上向き合ってきた。そして、その体験を17年7月からウェブサイト「ニュースソクラ」(以下・ソクラ)のコラム「尊厳ある介護」に書きつづってきた。それから2年、コラムは1冊の本として5月に岩波書店から出版された。
6月22日のアマゾンランキング「高齢化社会」の部門では第1位を記録。「まるで私のことが書かれているみたい」、「介護で苦しんでいるのは自分一人ではないことがわかった」など、大きな反響を呼んでいる。里村さんは「私はこの本を聖書のように書きました。この本を介護福祉の〝バイブル〟にしたいのです」と語った。

書くのが苦手なのに書けた。本になった

コラムを書くきっかけは、大学院の時に世話になった教授からの紹介だった。「ソクラの編集長が『両親の介護で苦しんで、認知症に関する本を探していたけれど、見つからなかった。もっと早く認知症の知識があれば現状は変わっていたかもしれない』とのことでした。そして、その編集長が私にコラムを書くことを提案されたのです」
里村さんは、これまでの介護経験を通して、認知症の人たちが人間らしい扱いをされてない実態を見て来た。自分自身、徘徊したり、暴言を吐き、暴力で訴える認知症の人に悩んでもきた。家族からもたくさん悩み相談を受けていた。指導者として学んでいたので、「こんな関わり方をしたらもっと落ち着かれるのにな」という知識も持っていた。家族の苦しみを取り除きたい、認知症への誤解を解きたい、書くことはいっぱいある…。「ランチをしながらそんな話をしていたら、『じゃあ、書いて』ということになりました」
ノルマは毎週1回千600字。だが、里村さんは書くのが大の苦手だった。「書けと言われても、どう書いていいのか分からないのです。本当に大変でした」
何とか3か月続けた。すると、編集長から「反響があるので、里村さん、いつまでも書いていいよ」と言われた。こうして1年半ほど書き続けていったら、今度は岩波書店の企画会議で本の出版が決まった。ソクラの編集長は里村さんに、ソクラで書いてきた内容に加え、「なぜ、介護福祉の世界に飛び込んだのか」という部分を書いたほうがいいと提案した。「『里村さんが尊厳ある介護に至ったのは信仰が背景にあるからではないか。そこを書いたら』と助言してくれました。それで、第7章『介護の世界に飛び込んで』では、素人の私がなぜそこに行き着いたのか、証しを書かせていただいたのです」
里村さんは、「書くのが苦手な私が、葛藤し、時には泣きながら書けたのは、神様から使命を与えられたということ」と話す。「私の中では、福祉も伝道、福音。介護の本だけれど、福音を伝える本です。だから、みんなが分かるものにしたい。できた暁には、売れるような、プレゼントするようなものにしたい。また、私は認知症に関する講師でもあるので、セミナーのテキストに使えるようにもしたい、と思ったのです。神様が書かせてくれた本なので、一人でも困っている人に届くようにすること。これが今、神様から私に与えられたミッションなのです」
認知症の人への介護は、これまでメソッドがなく、勘に頼っていた部分があると語る。そのため、介護士や家族にストレスがかかってきた。里村さん自身も、その人のためにやったのに泥棒呼ばわりされ、ショックを受けた経験があると明かす。そんな試行錯誤の中で学んだことが、「寄り添うケア」だ。「『寄り添う』とは、認知症の人を変えようとしないで、介護者のほうが近づき、その人をありのままに受け入れること。そうすると、無視されていたその人の自尊感情は高まり、尊厳が回復するのです」。特に15分間の傾聴は効果的だと言う。
『尊厳ある介護』は認知症に関する理解を深める上で、また悩む家族、介護者にとってまさにバイブルのような本だ。だが、里村さん自身はもともと介護職とは全く無関係の仕事をしていたと言う。(つづく)【中田 朗】